Desired ratio of
BURDEN AND BENEFIT.
【課題1】負担と受益の望ましい割合について

グラフにあるように、90年代以降スウェーデンのGDPは、日本のそれより基本的に大きな伸び率を示していることがわかる。両国の国民負担率を比較すると、平成29年度の「厚生労働白書」によれば、2013年で日本が租税負担率24.1%、社会保障負担率17.5%、計41.6%に対して、スウェーデンは租税負担率49.9%、社会保障負担率5.7%、計55.7%と日本に比べてかなり高い負担をしていることがわかる。GDPの伸びの違いはそれにも関わらずなのか、それだからこそなのか、実際はその他もろもろの政策の違いや労働組合組織率がスウェーデンは77%、日本は17%などといった社会的な仕組みの違いなどが入り混じっての結果と思う。例えば、岡崎憲芙・斉藤弥生編著「スウェーデン・モデル」によれば、20世紀後半以降のスウェーデンにおける事実として、①女性議員排出率の高さ、②税金の高さ、③福祉水準の高さ、④女性就労率の高さ、⑤国際競争力の高さ、⑥透明度の高さ、⑦難民保護数順位の高さ、⑧教育への公的支出の多い国、⑨投票率の高さ、⑩若手抜擢主義の高さなどが指摘されている。また、湯元健治・佐藤吉宗「スウェーデン・パラドックス」では、スウェーデン・モデルの特質として、①オープン・エコノミーと健全なマクロ経済・財政運営 ②ITインフラの整備とイノベーションを生み出す戦略的研究開発、③高い女性の労働参加率と子育て支援の仕組み、④包括的かつ大胆な環境政策と環境に対する高い国民意識、⑤連帯賃金制度と呼ばれる労使協調型の賃金決定の仕組み、⑥人間を重視する積極的労働市場政策と実学志向の強い教育制度、⑦労働インセンティブと企業活力に配慮した税・社会保障制度をあげている。経済産業研究所で日本の国民負担を10%増やしたときにどうなるかという研究もあるが、日本という場で考えた場合、歴史的・社会的な要素などを考慮した時に、もうすこし突っ込んで、ではどうなのか、そのあたりのメカニズムを明らかにしてほしい。
また、スウェーデン経済については、かつてミュルダールが自国スウェーデン型の福祉国家論を著したときに、自己の価値判断が入りすぎているといった批判があったようであるが、どんな研究者も自分の価値判断基準からは逃れられない宿命を持っていると思う。それを前提に議論がなされないと意味がないのではないか。そういう意味では、欧米主流の経済学にはいわゆる合理主義が入り込みすぎて大胆な仮定なしには成立しないにも関わらず、極端に言うといつの間にかその前提を忘れ去ってしまうこともあるのは、私だけのことだろうか。いずれにしても、日本の現状はそういう合理主義的な前提をそのまま適用してもいいのだろうか。そういう検証も必要ではないかと思う。そのうえで日本の社会経済の活性化のためには国民負担はどの程度が適切で、それに見合う国民への社会福祉給付はどの程度が適当なのか、あるいはどういう形の給付が適当なのか、それを実現するためにはその周辺の制度や政策をどのように組み立てるべきなのかというような研究が出てこないのだろうか。
私が1972年に県庁に入って、最初の職場で参加させられた日本IBMとの共同研究であった50年後の社会像のシミュレーション作業は、当時ローマクラブの「成長の限界」に触発されてシステムダイナミックスというソフトを使った兵庫ダイナミックスと称していたが、大変ラフではあったが、人口、経済、交通、環境や資源問題を中心として社会のいろいろな側面の変化がそれぞれ相互に干渉しあって変化していくといった、ある意味で不完全ながら社会全体の姿をシミュレートしようとするものであった。それでもその後その提言を踏まえて、近畿全体で産業廃棄物を広域処理するフェニックス計画を生み出し、今に続く結果も残している。いまやAIといわれるようなその分野では当時と比較にならないほどの劇的な進歩を経た技術やソフトを使い、様々な施策の実施によるエリア経済全体への影響を適切に評価し、トータルとしてのエリア経営に資するような作業ができないものだろうか。もちろん当時も感じていたが、こういった作業にはある種のまやかしと言っては言い過ぎだが、研究者の意図が出すぎる面や飛躍があるような気がして当時は抵抗を感じていたものだが、しかし、それでも必要なことであると思う。
誰かやりませんかと思っていたら、2016年に日立と京大が組んで2052年までの日本の未来シナリオをAIを用いて取り組んでいただいていた。今後日立は、そのアプリを改善し、全国の自治体にも無料で開放されるとのことである。それを活用し、さらにそれぞれ独自で変数等をいじって、それぞれの政策をどれほど、どのような形で実施したらどういうことになるかといったシミュレーションを行い、また、それを世に問うという動きを期待したいと思います。
そのほか財政学の赤井伸郎氏が「行政組織とガバナンスの経済学」で、行政単独の場合と独立行政法人が絡む場合のガバナンスに関わる経済分析をやられているが、こうした優れた研究も他にたくさんあると思います。「木」に関わる分析も「森」全体の分析に欠かすことのできない要素であり、課題はほかにもたくさんあると思うが,ここでは省略します。